夜観光のススメ

2025年03月31日(月)

夜観光

【京都・夜観光のススメ企画(③夜のアートスポット)】演劇からダンス、音楽ライブまで。京都の小劇場文化を守る場所~THEATRE E9 KYOTO~

夜の帳がおりるころ、京都は昼と違う表情を見せてくれます。このコーナーでは、ミニシアター、書店、ギャラリーなど、夜に訪ねたい文化スポットをご紹介します。
第4回は南区の東九条にある小劇場「THEATRE E9 KYOTO」。京都では2010年代半ばに小劇場が相次いで閉館し、危機感を持った演劇関係者たちが2019年6月、クラウドファンディングや企業協賛等でお金を集めて開館しました。めざすのは100年続く小劇場。演劇、ダンスだけでなく、音楽、映画、美術展示など、さまざまな芸術表現の場として親しまれ、まちの人々との交流も活発に続けています。 



演劇のまち、京都で小劇場が次々と閉館

 能や狂言が定期的に上演され、南座という歴史ある劇場がある京都は、大学が多く、学生演劇も盛んです。演出家のマキノノゾミさん、その妻で女優のキムラ緑子さん、アーティストグループ「ダムタイプ」の高谷史郎さん、劇団「MONO」代表の土田英生さん、映画化もされた「紙屋悦子の青春」を手掛けた松田正隆さんなど、きら星のような人材が多く輩出されています。
 


若手演劇人の活躍を支えてきたのは、市内に多くあった小劇場でした。けれども、娯楽の多様化や、文化の東京一極集中が進み、2015年から2017年にかけて、所有者の高齢化や建物の老朽化を理由に、5つの小劇場が閉鎖されたのです。中でも、京都の小劇場の草分け的存在だった「アトリエ劇研」が閉館したことは、京都の演劇人にとって大きな痛手となりました。
 劇作家・演出家のあごうさとしさん

 「これではいけない、新しい小劇場が必要だ」と立ち上がったのが、劇作家・演出家のあごうさとしさんです。自身が中心となって地域や企業に呼びかけ、「一般社団法人 アーツシード京都」を創業。クラウドファンディングや企業協賛等で資金を募って、小劇場「THEATRE E9 KYOTO」を立ち上げました。
あごうさんは「小劇場の相次ぐ閉館によって、京都の舞台芸術の文化が危機的状況に瀕している、と強く感じました。とりわけ若い人たちが舞台芸術に関わる機会が失われることに危機感を抱き、劇場の立ち上げに動き始めました」と話します。
大阪府出身のあごうさんは、同志社大学の学生だったころから、演劇サークル「第三劇場」に参加し、卒業後も演劇を愛し、創作を続けてきた生粋の演劇人です。やなぎみわさん、森村泰昌さんといった美術作家との共作も多く、平田オリザさんによるロボット演劇のロボットオペレーターなど新しい活動にも取り組んできました。閉館した「アトリエ劇研」では最後の3年間、ディレクターを務め、現在は「THEATRE E9 KYOTO」の芸術監督です。

 あごうさんが演出を務めたOOAK#3『アカルナイの人々』(撮影:金サジ)

2019年、狂言師・茂山あきらさんの「三本柱」のこけらおとしで幕を上げた「THEATRE E9 KYOTO」。設立後には、京都市立芸術大学が京都駅近くへ移転するなど、東九条地域は「若者」と「アートの実践」によって活性化を続けています。

コワーキングの利用者と脚本づくり


 
「THEATRE E9 KYOTO」は京都駅八条口から歩いて10数分という便利な場所にあります。鴨川のほとりに建ち、春には川沿いの桜が満開に。もともとは倉庫だった建物をリノベーションしたブラックボックス型の小劇場で、客席は90席です。
 
演劇、ダンスなど、幅広い作品に対応できる舞台

いすは、小劇場用に特別につくった、クッション性にすぐれたもの。長時間の鑑賞でも疲れにくく、快適に過ごすことができます。2025年3月2日にはジャン・ジュネ原作、ファン・ウンギ演出の「女中たち」が、劇団DOMOによって上演されました。2025年3月7、8、9日の3日間は、はなもとゆか×マツキモエ Contemporary dance solo creation vol.1 “AISTHESIS”を上演。東野祥子さんの演出で、松木萌さんがひとりの女性の生と性を表現しました。

 クラウドファンディングなどで協力してくれた人の名前が刻まれたプレート

「THEATRE E9 KYOTO」の建物1階には、クラウドファンディングなどで支援してくれた人の名前を刻んだプレートが掲げられ、出演者と観客が利用できるカフェが併設されています。待ち合わせや、公演終了後にお茶を楽しむのに便利です。
 

2階は朝7時から夜11時まで使用できるコワーキングスペースとなっています。コワーキング会員のビジネスパーソンを対象にした「E9アートカレッジ」という独自の取り組みも開催。演劇の創作の現場で行う「脚本づくり」を体験する中で、自分の心に向き合ってもらう活動をしています。自分が心に秘めていることを言葉にすることは、演劇だけでなくビジネスの場面でも役立つはずだ、という思いが背景にあります。

 
住民と良い関係をつくり、文化の多様性を守る

 京都をはじめとする地方の小劇場は、観客の減少や公立の劇場・ホールとの競合が理由で、経営が不安定になりやすい課題を抱えています。とくにコロナ禍以降は、新しい価値の創造が必要だといわれてきました。

その一つに、地域に開かれた文化拠点になる取り組みがあげられます。「THEATRE E9 KYOTO」も「東九条野外劇場」の企画制作や、地域の公立中学校と連携してオリジナルの舞台芸術作品を創作する活動をしてきました。
あごうさんは、まだ開館していない2017年、「夏祭りの時に何か出し物をしてほしい」と地域の人に頼まれ、茂山あきらさんに狂言「柿山伏」を演じてもらいました。それを喜んでもらえたことが、地域の人の信頼感につながったといいます。

2023年 はなもとゆか×マツキモエ 公演写真(撮影:Shinz)

そのほか、「THEATRE E9 KYOTO」をはじめ全国の提携劇場の公演を観劇できる「E9サポーターズクラブ」制度や、周辺地域に住む人、通学・通勤する人が「THEATRE E9 KYOTO」での公演を全公演鑑賞できる「エリア限定会員」の制度も設け、劇場に足を運びやすくなる仕組みづくりにも取り組みました。
「開館して5年以上たち、住民のみなさんとの距離が近づきました。文化の多様性を守るため、これからも挑戦を続けます」と話すあごうさん。劇場のさらなる発展に意気込みます。



今回のスポットの基本情報 

【スポット名】THEATRE E9 KYOTO
【電話番号】075-661-2515
【住所】京都市南区東九条河原町9-1地下1階
【営業時間】10時~18時(事務局対応時間)
【定休日】不定休
【HP】
【喫煙情報】喫煙スペース(灰皿)あり
【お子様の同伴】演目によって対応が異なります。各公演ページからご確認ください。
【外国人の方に向けた対応】-
【店内での写真撮影】劇場内の撮影はご遠慮いただいています。ロビースペースでの撮影は可能です。ただし、他のお客さまが写り込まないようにご注意ください
【料金など】演目によって異なります。詳しくは各公演ページをご覧ください
【お支払い】現金、クレジットカード決済、QR決済
【バリアフリー対応】スロープ、多機能トイレの設置あり


今回の記事の読者への特典

「E9サポーターズ会員」申込時に「『夜観光のススメ』を読んだ」とお伝えいただいた方に、「E9オリジナルトートバック」をプレゼント。※劇場申込の場合は窓口にて、WEB申込の場合は「ご質問」欄にご記入ください
特典有効期間:2025年8月末まで 



ライター・カメラマン情報

『ハンケイ500m』編集部
京都にあるたくさんのバス停のから、毎号1つをピックアップし、そのバス停を起点に半径500mをくまなく探索。 独自の哲学、ポリシーを持った「職人」気質の方々を発見し、そこから見える多様な価値観を発信するフリーマガジン、『ハンケイ500m』を制作・発行しています。
HP

今回の記事制作担当

『ハンケイ500m』編集部(株式会社ユニオン・エー)