夜観光のススメ

2025年03月31日(月)

夜観光

【京都・夜観光のススメ企画(①夜のミュージックスポット)】現存する日本最古のナイトクラブ~CLUB METRO~


ショコラ・ド・ショコラ(写真左)、アフリーダ・オー・ブラート(写真右)

「夜のミュージックスポット」は、ナイトクラブ、ライブハウス、ミュージックバーなど、京都で夜に音楽を楽しむ場所を紹介する連続企画。第4回で取り上げるのは、音楽を中心としたクリエイティブなパーティーが夜通し繰り広げられる「ナイトクラブ」。日常では出会えない音楽・人・文化との出会いの場であり続けるナイトクラブだが、1990年にオープンして以降、のべ150万人以上を動員し、様々な音楽・人・文化を受け入れる寛容さで、いまや京都のクラブカルチャーを象徴する老舗が鴨川沿いにある「CLUB METRO」だ。キャパシティ僅か300人でありながら、ダフトパンクやエイフェックス・ツイン、スクエアプッシャー、アート・リンゼイら世界の名だたるアーティストが出演。また同時に世界に進出した関西・京都発のアーティストを数多く輩出し続ける同店を、インタビューや執筆を通じてストリート・カルチャーを発信する音楽ライター・渡辺志保が紹介する。

日常の風景に突如現れるエキセントリックな非日常空間

聴きしに勝る、CLUB METRO(以下、METRO)。かねてからそのユニークさと、METROが作り上げる稀有な雰囲気やその重要性については聞いていた。今回、新幹線に乗って初めてMETROを訪れた。

暗くなった鴨川のほとりを歩きながら、京阪電鉄の神宮丸太町駅2番出口を探す。METROの入り口は地下にある駅の出口と直結しており、最初はやや面食らうかもしれない。地下と地上を結ぶ階段の踊り場のような場所に、突如METROのドアが現れるのだ。京阪電車の地下駅という日常的な場所に埋め込まれるようにして存在しているMETROの風貌は、どこに繋がっているのか分からないエキセントリックな雰囲気を持つ。


夕暮れの鴨川


METROの入口

METROがオープンしたのは1990年4月。今年でオープン35周年を迎え、現存する日本最古のクラブとしても知られる。オーナーを務めるのは山本ニック氏。山本氏の原体験がMETROオープンのきっかけになっている。
「当時、ニューヨークにいた頃はパラダイス・ガラージとかザ・リッツとか、そういうクラブによう行ってたんです。そんな時に、“一番危険なサウス・ブロンクスあたりに、ブレイクダンスが生まれたクラブがある。そこはマンハッタンの地下基盤になっている玄武岩が隆起した一部が、壁から突き出しているらしい”と噂で聞いて。仕事が終わって深夜1時くらい、友人3人と地下鉄の赤い一番線に乗ってハーレムまで行って、そこから橋を渡ってそのクラブに向かいました。当時はGoogleマップもないから、聞いた道順を頼りにして行くしかない。レンガが崩れたような街並みを歩いていくと、音が漏れ聞こえてきたから“これや!”と思って。それがファーストクラスというクラブ。そこで体験したことがすごかったんだわ。クラブの奥にカーテンがあって、それを開けたら15人くらいのサークルが2つある。そこでは車椅子の人も低身長症の人もスピンしてブレイクダンスしてハイタッチしてる。日本に帰ってきて、いくつかのクラブに行ってみたけど、店が何がやりたいのか、そういう主張が伝わってこないクラブが多かった。無機質な空間にターンテーブルを並べたような個性のない内装が多いんじゃないかとも感じた。だから、METROは外国人の人が遊びにきてもショックを与えるような店にしたいと思った」。かくして、METROのオープンと相成った。


 
開店すぐのMETROの店内


写真右がMETROオーナーの山本ニックさん

京都の歴史を見つめてきた文化財が埋め込まれた内装

もう1人、METROの顔と言えるのが、オープンしてわずか2ヶ月後からMETROのスタッフとして働いている林薫氏。今はMETROのプロデューサーであり、イベントのブッキングも担当する。METRO単体の魅力も去ることながら「まず、京都という場所に魅力がある」と、林氏は分析する。「京都のお客さんは、音をしっかり聞いてくれる。“ただ騒いで盛り上がるだけじゃない”という雰囲気を感じます。だから、海外のDJの方からも“音に対してのリアクションがいいので、また来たい”と思ってもらえているのでは。京都には芸大もたくさんありますし、生徒の方はもちろん、先生方も自然と面白い方が集まってきている。そうした皆さんのゆるやかなネットワークもありますし、とくにMETROが位置する左京区エリアは大学が多い場所でもあるので、余計にそういう魅力が色濃いと思います。京都の中でも、左京区の特色に生かされている場所だなと思います」。


写真中央がMETROプロデューサーの林薫さん

「意識しなくても、自然と集まってくる。METROは”面白そうなMETROを面白く使いたい”という色んな人たちの集合体」と林さんが語るように、普段は、ヒップホップからレゲエ、ハウス、実験的な電子音楽などあらゆるジャンルのイベントを抱えている。KYOTO JAZZ MASSIVEやMONDO GROSSOなど、時代を象徴するアイコニックなミュージシャンたちはMETROを土壌にして、そのアーティスト性を育んでいった。さらにはトークショーや映画上映も開催され、そこには、紋切り型のナイトクラブ以上の存在価値がある。

「これは文化財や」と言って山本氏が指したのはゴツい鉄骨。「この店を作るとき、“どの場所におってもカッコええぞ”という内装にしたかった。それと、“京阪電鉄の地下線建設工事が終わってもこっちはまだ掘り続けているぞ”というのがコンセプト。ここを作る時、ちょうど(鴨川に掛かる)丸太町橋(大正2年竣工)が解体されている最中で、草むらにゴロゴロ鉄骨が転がってた。それを見て、“宝や!”と思って。なんせMETROは“掘り続けている“がコンセプトなわけやから、店の鉄骨が弱々しかったらあかんわけ。(工事)現場の監督に聞いたら、“京都市のモンやし、競売に掛けるからあかん”と断られたんやけど、次の日も”頼む”と交渉しに行った。“歴史があって素晴らしい橋やから残さなあかん。せやから、自分が作る店に永久展示させてもらう”ということで最後には許可をもらってそれらの一部を運んできた」。バーカウンターに鎮座する円錐形のオブジェも、その橋の装飾として使われてきたもの。文字通り、大正時代から鴨川のほとりで京都の歴史を見つめてきた貴重な文化財が、METROの一部になって息づいている。あえて崩れているかのように備え付けられたレンガも、山本氏がニューヨークで目撃したショッキングなクラブの風景を再現したものだ。


METROの一部となった丸太町橋の鉄骨

 カウンターに埋め込まれた丸太町橋の欄干

国内におけるドラァグクイーンを主体としたパーティーの草分け「DIAMONDS ARE FOREVER」

筆者がMETROを訪れたのは2月の最終金曜日。この日は「DIAMONDS ARE FOREVER」(以下、「DIAMONDS」)が開催されていた。日本におけるドラァグクイーンの草分け的存在でもあるシモーヌ深雪とDJ LaLaらによってオーガナイズされるパーティーで、1991年からMETROで毎月末に開催されている。毎回異なるテーマを設けており、今回のお題は“ZODIAC ZODIAC”。一夜に二度、ドラァグ・クイーンたちによるショータイムがある。一体、どんなパーティーが繰り広げられるのか。

22時のオープンまもなく、客が入り始める。フロアの奥にはスパンコールのカーテンで装飾されたステージがあり、その対面にDJブースが設えてある。200人も入ればパンパンになるであろうフロアには、徐々に人々が集まり、海外からきた観光客風の人やドラァグ・メイクを施して来た人、手を繋いで肩を触れ合いながら踊る女性のカップルなどがDJの選曲を楽しんでいる。深夜にはほぼ満員に近い状態となり、人々の視線は自然とステージの方へと向けられる。DJ LaLaがイベントのテーマ・ソングとも言えるシャーリー・バッシーの「Diamonds Are Forever」をかけると、店内はさらにマジカルな雰囲気に包まれる。その後、ステージにはミュージカル『ヘアー』でもお馴染みのフィフス・ディメンション「Aquarius」とともに水瓶座を思わせるブルーの衣装に身を包んだシモーヌが現れた。その妖艶な姿に目を奪われる。この日、参加したドラァグ・クイーンはシモーヌを含めて総勢7名。双子座を模したバカラ「Ay, Ay Sailor」や恋のキューピッドよろしく射手座をイメージしたユーリズミックス「There Must Be An Angel」、テーマ通りのロバータ・ケリー「Zodiac」など、趣向を凝らしたパフォーマンスは豪華絢爛であり、妖艶で淫靡な雰囲気があるとともに、笑える瞬間もある。フェティシズムとエンターテイメントが同居する、これまで味わったことのない空間だ。


シモーヌ深雪


ショコラ・ド・ショコラ


そよ風さん

ドラァグ・クイーンたちのショーは2つのパートに別れる。ショーとショーの間はDJ korがフロアをさらに温める。プラットフォームのヒールが特徴的なブーツを履いた男性や、ステージに上がってクイーンたちと一緒になって踊る女性。バーカウンターの前ではひっきりなしにドリンクが提供される。METROの音響システムは、立体感がありながらもクリアな音を鳴らす。しっかりとベースが響くがいやらしさがなく、会話することも苦にならない。入り口横の喫煙スペースにはソファが置かれ、思い思いのチルなペースでおしゃべりが進む。フロアの脇に位置する鋪道のようなスペースはまさに地下鉄のホームを意識したそうで、人影に身を潜めることができる格好の空間でもある。ダンスタイムを経て、再びフロアには「Diamonds Are Forever」が流れ、再度、ステージには煌びやかなクイーンたちが出揃った。フロアには高揚感と陶酔感が充満する。

ひとしきり取材が終わった後、山本氏に「35年もともに歩んできたMETROとは、ニックさんにとってどんな場所ですか?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。「METROは、運命共同体や」。そして「あと、付け加えたいんやけど」と前置きし、こう続けた。「障害のある人とか、今日も集まっているLGBTQの人たちとか。そういう人たちが集まってパーティーを始めたということを大事にしたい。クラブの歴史の発祥はそこやから。ワンピープル、ワンハート。その思いはずっと変わらない。あのステージの奥も、今もずっと掘り続けているんやから」。

 



 

今回のスポットの基本情報

CLUB METRO(クラブ・メトロ)
【住所】京都市左京区川端丸太町下ル下堤町82 恵美須ビル B1F
【アクセス】京阪本線・鴨東線 神宮丸太町駅2番出口 直結
【電話】075-752-4765
【営業時間】オールナイトのイベントの場合は主に22時オープン(イベントにより異なるのでCLUB METRO公式サイトの各イベント詳細ページ参照)
【定休日】不定休(CLUB METRO公式サイトのスケジュールページ参照)
【キャパシティ】約300人
【支払方法】現金、クレジットカード、電子マネー
【外国語対応】英語メニューあり
【喫煙】店内に喫煙スペース有
【駐車場】なし(徒歩5分圏内にコインパーキング有)
【予約方法・料金】CLUB METRO公式サイトの各イベント詳細ページ参照
【URL】

【初めてクラブに行かれる方へ】
基本的には当日でも入場可能ですが、当日の方が入場料が500円ほど高い場合が多く、また前売が売り切れた場合には当日入場不可の場合もあるので、予約することをお薦めします。
チケット料金の他に、1ドリンクの注文が必要になります。
CLUB METROの場合、前売り券の購入方法は、「CLUB METRO」の公式サイト内「HOW TO BUY TICKET」からご確認いただけます。
 

今回の記事の読者特典

入場時、受付で「『夜観光のススメ』を読んだ」とお伝えいただいた方に、ドリンクチケットを1枚プレゼント
特典有効期間:2025年7月31日まで

ライター・カメラマン情報

ライター情報:渡辺志保(ワタナベ・シホ)
1984年、広島市出身。これまでにケンドリック・ラマーやニッキー・ミナージュ、コモンら海外アーティストほか、国内のアーティストへのインタビュー経験も多数。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』(NHK出版)などがある。ラジオMCとしても活動する他、イベントの司会業なども行なう。現在、ポッドキャスト番組「渡辺志保のヒップホップ茶話会」配信中。

カメラマン情報:成田舞(ナリタ マイ)(Neki inc.)
京都在住、写真家。下鴨でデザインと写真の会社Neki inc.をデザイナーである夫やスタッフと一緒に運営中。場所を同じくして、「写真館 ある日」という、ポートレートや残したいものの記念撮影と日記のような冊子を作る写真館活動を行なう。写真のゼミやワークショップ、展覧会を開催しながら、知覚すること・記憶すること・アーカイブすることを観察し続けている。

編集:中本真生(ナカモト・マサキ)(UNGLOBAL STUDIO KYOTO / EXCYC)
京都を拠点に活動。出版レーベル”EXCYC”共同主宰。文化芸術(舞台芸術・音楽・現代美術・映像・映画・漫画・漫才 他)に関する編集やインタビューを数多く手がける。近年の企画・監修・編集の実績として、現存するクラブでは日本で最も長い歴史を誇るCLUB METROの貴重な資料を収録したアーカイヴ・ブック『CLUB METRO ARCHIVE BOOK “DIGGING UNDERGROUND” VOL.1 1990-1994』(2023)など。また一方で、文化芸術に関するWEBサイト制作のディレクション、展覧会・コンサート・作品の企画・プロデュースなどを行う。近年の主なWEBディレクションの実績として、「オラファー・エリアソン展」(麻布台ヒルズギャラリー、2023)、「国際芸術祭「あいち2022」(愛知県各所、2022)、「ミロ展──日本を夢みて:特設サイト」(愛知県美術館、2022)など。

協力:石川琢也

今回の記事制作担当

ナイトタイムエコノミー推進協議会