夜観光のススメ

2025年03月31日(月)

夜観光

【京都・夜観光のススメ企画(③夜のアートスポット)】京都のアートな銭湯に行こう第2回 〜 宝湯 〜

伏見の歴史ある洋館銭湯へGo

美術館やギャラリーとはひと味違った体験ができる「アート」なスポットをご紹介。4回目は古代ローマ帝国の世界へ迷い込んだような気持ちになる、アートな洋風建築の老舗銭湯「宝湯」です。こちらは昭和6年に建築された、伏見で地元住民に長く愛されている銭湯。暖簾のかかった夜の入り口だけを見ると、その歴史的な佇まいがはっきり伝わらないので、まずは昼の様子をご覧いただきます。

 

この佇まいを想像できたでしょうか。暖簾が掛かっていなければ銭湯と思えないほどの存在感。この辺りを通りかかった人は、そのインパクトのある外観から美術館や博物館と思って近づいてみるとびっくりするとか。一番上の屋根のカーブなどはまさしく旧ローマ帝国時代の建物のようです。
そして右から旧字体で「寶温泉」と彫り込まれた、ファザードの店名がなんとも味わい深い。アーチの装飾にも芸術的なこだわりを感じますね。これが昭和初期に建てられたというから驚き。「京都を彩る建物や庭園」に認定されていて、まさに歴史遺産です。

「実はこの建物、木造なんですよ」
なんですって?と振り返ると、声の主はこちらの銭湯を管理する北尾長和さん。近くにある藤森神社の駈馬神事保存会会長もされている、伝統文化の継承に深く関わられている方です。
「正面の屋根の向こうに隠れてるんですけど、一般的な日本家屋の屋根があるんですよ。半円形の屋根とか柱の上の方の徽章とか、見事な外観になってるでしょ。正面だけでなく側面も全部、当時の左官職人が仕上げたというからすごいです。はじめはもっと一般的な木造の銭湯が建つ予定やったけど、なぜか途中で設計変更があってガラッと見た目が変わったらしいです」。

 
脱衣場はまるでテルマエ・ロマエの世界

 
そこはまさしく映画「テルマエ・ロマエ」の世界。壁も柱も天井も真っ白で、旧ローマ帝国の建造物のようです。でもこれが木造でできているんですよね。当時の左官職人がコテで塗って仕上げた内観がとにかくすごい。同じように仕上げることは現代ではかなり難しいらしく、実際に左官職人が見にきてその技術力の高さに感心するといいます。所々いたみが出ている箇所は現在、パテで埋めて白塗に。なんとかしてその美しい白さを守ろうと頑張られています。真ん中が少しふくらんだ柱もいかにも旧ローマなどの時代を思わせるデザイン。もちろん左官仕上げで、中は煉瓦で組まれているだろうとのこと。芯にどんな材料が使われているのか不明点も多く、昔の職人は丈夫な建築物をつくる技術にも長けていたようです。

柱の装飾や天井あたりの境目なども芸が細かく、左官職人という肩書きでありながら一体どんな人たちが仕上げたんでしょうか。今なら現代アーティストの作家として活躍できるかも。そんなアートな職人技を見られます。「当時、参考になるようなデザインをどこで見てきたのかわからないんですけど、こんな洋風に仕上げようと指示を出した棟梁のセンスがすごいと思います。珍しい建物ができてこの辺りに住んでいた人たちも喜んだでしょうね」と北尾さん。

 
女子の脱衣場にはベビーベットが並んでいました。第2次ベビーブームで赤ちゃんを連れてくるお客さんが多かった頃に、女性でも銭湯が利用しやすいように用意したといいます。女性の視点を取り入れる先進性は、洋風建築のように新しい価値観を取り入れる感覚に通じるものがあります。一方で20円で使用できるマッサージ機や頭をすっぽりおおう髪乾かし機などレトロなものもいっぱいあって、見て回るのが楽しい脱衣場です。

美しいタイルアートと多彩なお風呂

 
浴場も見てみましょう。洗い場や浴槽は広くて、モザイクタイルのデザインがなんともかわいい。異なるタイルの組み合わせがアートです。昭和初期に建築された当時は、煉瓦づくりの浴場でしたが、昭和40年代に改築し安全性の高いコンクリートブロックに変わりました。
 


一番広々とした浴槽の底には鯉が2匹。お湯の中でゆらゆらして、泳いでいるように見えます。浅い浴槽もあるのでお子様連れでも安心です。

 
こちらはその名も「人間洗濯機」と呼ばれる、左回りにジェットが出て、ぐるぐる流れる中に座って楽しむお風呂です。昭和56年のリニューアルで設置されてからずっと大事に使われているもので、当時はほかの銭湯にもあったそうですが、今では珍しいといいます。
銭湯に使うお湯は、すべて地下水をボイラーで沸かして濾過したもので、酒処で有名な伏見の酒造りにも使われている地下水なんです。ちなみに伏見の酒は女酒ともよばれる軽やかで淡麗なのが特徴。そんな地下水をふんだんに使ったお風呂なので心地いいですよ。


 
同じく昭和56年に導入したのが湿式のサウナ。中は50度くらいで蒸気で真っ白です。最近流行の100度超えのドライサウナとは異なるので、サウナが苦手な方でも入りやすいですよ。

カランなど設備の交換は北尾さんが直していて、長く愛されるゆえに管理する方がずっと大事にしていることがわかります。地元の方は昼の3時頃から来られることが多いため、夜7時以降になると空いているそうです。4月から公開される映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』のロケ地にもなりました。そんな「宝湯」でゆっくり汗を流してみませんか。

 
 

インタビュー協力

北尾 長和 さん


今回のスポットの基本情報

宝湯
【住所】京都市伏見区深草大亀谷西久宝寺町18番地
【営業時間】15:00~21:30
【定休日】金曜日、土曜日
【アクセス】市バス「西久宝寺町」バス停下車すぐ
【入浴料】大人(高校生以上)550円  中学生400円  小学生200円 幼児(未就学児)100円

ライター・カメラマン情報

ライティング【渡辺 良】、撮影【吉田 努】


今回の記事制作担当

株式会社グラフィック
20年間にわたり京都観光のフリーペーパー「京都いいとこマップ」を発行。現在は、京都いいとこウェブ(https://kyoto.graphic.co.jp/)、京都いいとこフォト(https://www.instagram.com/kyoto_iitoko/)、京都いいとこ動画(https://www.youtube.com/@KyotoiitokoVideo)を運営。