2023年11月15日(水)
京都・夜観光 エンタメのススメ ~ 名演奏に酔いしれる、気軽な夜のコンサート ~ 「京都市交響楽団定期演奏会 フライデー・ナイト・スペシャル」
初めての方も楽しめるよう工夫された能や狂言の舞台を始め、京都の多彩な文化・芸術を楽しめる公演をご紹介します。第6回は『京都市交響楽団』。京都市交響楽団(京響)は、1956年創立の日本で唯一の自治体直営で、市民だけでなく全国にファンをもつ歴史あるオーケストラです。
©井上写真事務所 井上嘉和
1月から11月まで定期演奏会を行っており、そのうちほぼ隔月で開催されるのが金曜夜の「フライデー・ナイト・スペシャル」です。19時30分から約1時間で、初心者から通い詰める長年のファンまでが満足できる上質なプログラムが披露されます。夜のひととき、京都が誇る見事な演奏に浸ってみましょう。10月13日(金)に開催された演奏会に行ってきましたので、その時の様子をご紹介します。
初心者にも嬉しい演奏会
この日は、前半はピアノ独奏、後半はオーケストラで構成されたプログラムでした。観客たちが息を呑んで注目する張り詰めた空気のなか、ピアノを独奏するアレクサンドル・タロー氏の指先から最初の一音がこぼれました。なんとも柔らかく特別な響きがあり、それだけでプロの演奏家の凄みが伝わってくるようです。この日の楽曲はドビュッシーの前奏曲集。演奏が進むにつれて、一台の鍵盤と10本の指先だけで生まれるとは信じがたい豊かな音がホールにあふれ、観客を包みこんでいきます。ピアニストの腕の動きもペダルの響きも、休符の無音さえもが演奏の一部であり、それらを身体ごと受け取り共鳴するのが「音楽を聴く」ことなのだと、生の演奏を見て改めて実感するのでした。ピアノの独奏が終わると、そのまま休みなく楽器を携えた楽団員の方々が入ってきて京都市交響楽団の演奏が始まりました。楽曲は、戦中戦後に活躍したという音楽家・尾高尚忠の交響曲第1番作品35。先ほどのピアノ独奏とは真逆で、今度はいきなり太鼓やシンバルの轟音が炸裂し、迫力ある音に度肝を抜かれます。今回の指揮は1994年生まれという新進気鋭のマエストロ太田弦氏。全身を使って表現する指揮は情熱に満ち溢れており、交響楽団の音も心なしか熱を帯びたかのよう。幾重もの音色がホールいっぱい響いていました。
©京都市交響楽団
大胆な変革で新たなファン層を獲得
夢中で鑑賞するうちに、コンサートはあっというまに終演。なんだか少し物足りないほどで、「クラシック音楽は難しいのでは?」という初めの心配はどこかに吹き飛び、「また来たいな」と思いながら帰路についていました。そして、それこそが「フライデー・ナイト・スペシャル」の目指すところなのだと、楽団管理部長の福田さんは言います。「『フライデー・ナイト・スペシャル』は、これまで演奏会に来る機会のなかった方にクラッシックにもっと親しんで欲しいとの思いから始めました。コロナ禍が少し落ち着いてコンサート活動を本格的に再開できるようになった2022年に、長年続けてきた定期公演の開催方法を見直したんです」
それまでは1公演を2日間行うときは土曜と日曜の昼に開催していましたが、日程を金曜夜と土曜昼に変更。しかも金曜夜は、現役世代でも仕事終わりに立ち寄れる19時半スタートにし、土曜とは演奏内容も変えて2時間から休憩無しの1時間に減らしたのだそう。
「京都市交響楽団は本来大曲をじっくり練り上げて演奏する本格的なオーケストラで、今まで通りの王道コンサートは引き続き土曜に開催しています。一方、『フライデー・ナイト・スペシャル』では毎回趣向を変えており、今日のようなピアノの独奏なども行っているのです。熱心なファンの方は金曜夜と土曜の両方に足を運んでくださるようになりました」
初心者でも楽しめる内容を短時間で鑑賞できるのは、入門編としてもぴったり。新たなファンの獲得につながっていることは、この日の観客に20代〜40代と見受けられる若い人が多かったことからも間違いなさそうです。
最良の場所で、最高の音楽体験を
京都市交響楽団は1956(昭和31)年の設立。日本で唯一自治体が設置・運営するオーケストラで、67年の歴史があります。そんな老舗楽団においても、やはりコロナ禍による活動休止は大きな苦境でした。いくつもの公演を中止するなか、自分たちでできることを考えて企画したのが公式YouTube「京響チャンネル」。楽団員からのメッセージやアンサンブル演奏などのほか、楽団員がホールを飛び出して社寺や美術館などで演奏する動画も配信しています。「楽団員個人がフューチャーされることはあまりないので、ファンの方も面白がってくださっています。『京響チャンネル』でお気に入りの演奏者を見つけていただくと、演奏会に来るのがさらに楽しくなると思いますよ」と福田さんは話します。
また京都市交響楽団の人気を語るときに外せないのが、ホームグラウンドでもある京都コンサートホールの魅力です。
1995年に建てられた音楽ホールで、印象的な外観や螺旋状の廊下などが特別感に満ちており、音楽を聴く前から気分が高揚します。ホール内部も美しく、舞台上部には壮大なドイツのヨハネス・クライス社製のパイプオルガンが存在感をはなっています。ホール自体はシューボックス型といわれる建築様式で、その名の通り靴箱と同じ長方形。横幅が狭く壁面からの反響が観客席全体に回るため、「ホール全体が音を奏でる」のだそうです。
一流のアーティストを最上の場所で聴く「本物」の体験は、クラッシック音楽の魅力を知る最良の手段でしょう。そして、金曜夜のひととき地元の人々とともに味わう極上の音楽体験は、忘れがたい旅の思い出になるに違いありません。
インタビュー
京都市交響楽団
福田管理部長
公演のご案内
京都市交響楽団 定期演奏会「フライデー・ナイト・スペシャル」会場 京都コンサートホール
住所 京都市左京区下鴨半木町1番地の26
アクセス 市バス「北山駅前」、 地下鉄烏丸線「北山」駅 徒歩5分
公式HP https://www.kyoto-symphony.jp/
ライター紹介
白須 美紀京都市生まれ、宇治市在住。社寺、祭、芸能、きもの、京料理、京菓子といった京都ならではの文化を取材し、雑誌やウェブサイトなどに寄稿。近年は工芸ライターとしても活動し、ものづくりで文化を繋ぐ人々を紹介している。また、職人や作家と「いとへんuniverse」を立ち上げ、西陣織の一技法である西陣絣(にしじんがすり)を伝える活動も行っている。
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