2023年10月06日(金)
京都・夜観光 エンタメのススメ ~京都だけで見ることができる、一期一会の舞台 「ギア –GEAR-」~
初めての方も楽しめるよう工夫された能や狂言の舞台をはじめ、京都の多彩な芸術・文化を楽しめる公演をご紹介します。第2回は『ギア -GEAR-』。日本発×日本初の「ノンバーバル(言葉に頼らない)パフォーマンスで、年齢・国籍を問わず楽しめる公演です。
レトロビルにある専用劇場で、11年にわたってロングランを続けている『ギア-GEAR-』。言葉に頼らない「ノンバーバル」という演出を用いて、子供も大人も、外国の方も楽しめるプログラムです。演者5人によるお芝居で、マイム、ブレイクダンス、マジック、ジャグリング、盛りだくさんのパフォーマンスが展開されます。日によって2回公演が行われ、2回目の公演は17時または19時からなので、日中の社寺等の観光が終わってから、夜の時間を楽しむのにぴったりです。
圧巻の世界観に没入する
『ギア-GEAR-』の舞台となるのは、人間型ロボット「ロボロイド」たちが働くおもちゃ工場 。施設はかなり老朽化しており、あちこちガタついて今にも壊れてしまいそうです。ロボロイドたちはロボットなのに少しとぼけていて、感情も豊か。彼らの巻き起こす愉快なドタバタ劇に、観客席からはクスクスと笑いがこぼれます。ドールが登場すると舞台はヒートアップ。ロボロイドたちにもさまざまな化学反応が起きて、楽しいパフォーマンスが次々と展開されていきます。セリフは一切無いけれど、豊かな表情や身体の動きで登場人物の想いはしっかり伝わってきます。小さな劇場だけに演者との距離が近く息遣いまで感じられて臨場感も抜群。回り舞台や早着替えなど歌舞伎を彷彿とさせる演出に驚いたり、観客を巻き込んだパフォーマンスに笑ったり、美しいプロジェクションマッピングに見惚れたりするうちに、すっかり物語の世界に入り込んで登場人物たちに心を寄せているのでした。
一期一会を重ねてロングランを達成
「今日観た芝居をもう一度見たい」と思ってもそれが叶わないのが、『ギア-GEAR-』の面白いところです。舞台は5人で演じられますが、演者はマイム5人、ブレイクダンス7人、マジック4人、ジャグリング7人、ドール5人が在籍しており、毎日組み合わせが変わります。「4900通りの組み合わせがあるので、全く同じ座組みに出会える可能性はかなり低いと思いますよ」と話すのは、広報の小原悠路さん。11年前に京都で『ギア-GEAR-』のロングランが始まってから、演者たちと一緒に舞台づくりをしてきたメンバーのひとりです。
「全員がシャッフルされるため演者たちは毎回違う顔ぶれで舞台を作りあげることになります。その緊張感がそれぞれのパフォーマンスによい影響を与えますし、だからこそ見るたびに新しい感動を提供できると思っています」
公演の後は毎回反省会をして、その内容は28人の演者全員に共有されるのだそう。皆で細かな演出を日々ブラッシュアップし、音楽やプロジェクションマッピングも刷新してきたといいます。
2022年4月に10周年を迎え、2023年7月に4000回公演を達成するなど、ロングランを実現。同じプログラムを続けられることはもちろん、4000回がひとつとして同じでないのもすごいことです。日本において、一つの劇場でオリジナル演目をここまでの回数上演している例は他にないそうですが、偉大な記録を実現できたのも日々の努力あってこそ。リピーターのお客様が数多くいるというのも納得ですが、観る回数を重ねるほど好きな部分が増えていくのが『ギア-GEAR-』なのでしょう。
ファンに支えられ、京都を代表する舞台に
そんな『ギア-GEAR-』が一番のピンチを迎えたのは、コロナ禍でした。海外からのお客様がゼロになったうえ、緊急事態宣言で公演を中止せざるを得ない状況になりました。「『休んで、再開して、また休んで』の繰り返しでした。『断続も継続や』といいながら、公演日数を減らして細々と続けたんですよ」と小原さんも当時を振り返ります。そんな辛い時期を支えてくれたのは、熱心なファンたちでした。見に来られた方に満足いただくことを追求し、たゆまぬ日々の努力がよい舞台を実現し、魅力的なレビューを生み、人々を惹きつけているのでしょう。
「セリフが無いため、海外の方にも分かりやすいのです。難しいセリフがあると飽きてしまう小さなお子さんにも楽しんでいただいています」
京都には家族連れが夜に楽しめる場所があまりないので、そうした面でも喜ばれているのだとか。
「京都に舞台芸術を根付かせたい」という主催者の思いから生まれたという『ギア-GEAR-』は、その願い通りに老若男女が楽しめる京都を代表する舞台へと成長し、夜の京都の楽しみのひとつになっています。
インタビュー
小原 悠路
ART COMPLEX GROUP
ノンバーバルシアター『ギア-GEAR-』製作
公演のご案内
ギア -GEAR-会場 ギア専用劇場
住所 京都市中京区三条通御幸町東入弁慶石町56番地 1928ビル3階
アクセス 地下鉄東西線「京都市役所前」駅下車、 徒歩5分
市バス「河原町三条」下車、徒歩3分
スケジュール 公演日時詳細はホームページにてご確認ください
チケット予約 https://www.gear.ac/ticket/
ライター紹介
白須 美紀京都市生まれ、宇治市在住。社寺、祭、芸能、きもの、京料理、京菓子といった京都ならではの文化を取材し、雑誌やウェブサイトなどに寄稿。近年は工芸ライターとしても活動し、ものづくりで文化を繋ぐ人々を紹介している。また、職人や作家と「いとへんuniverse」を立ち上げ、西陣織の一技法である西陣絣(にしじんがすり)を伝える活動も行っている。