夜観光のススメ

2025年02月25日(火)

夜観光

【京都・夜観光のススメ企画(②夜のカフェ・スイーツスポット)】「夜の京都で老舗喫茶とスイーツを楽しむ」第1回~六曜社~

夜まで開く街中の名喫茶・六曜社で京都の日常に触れる


京都の繁華街の一角に、時が止まったような喫茶店・六曜社があります。1950年の創業から、一家で店を守り続けて75年。現在、地下のお店を父の奥野修さんが、1階のお店を息子であり三代目の奥野薫平さんが切り盛りしています。時代が変わってもなお、変わらぬ喫茶文化を守り続ける「六曜社の2つの顔」に迫ります。
 

-六曜社は地下店から始まった?

河原町三条という京都の繁華街の一角に、京都の人なら誰もが知る喫茶店・六曜社があります。創業は1950年。満州で喫茶店を営んでいた先代が故郷の京都に戻り、始めたといいます。創業当時の店は地下のみで、1965年にバーを始めたことをきっかけに、1階を喫茶店として営業するようになりました。

 

豪華客船をイメージしたという店内は、当時ではかなりモダンなデザインだったそう。重厚な木製カウンターや革張りのソファ、趣のある照明など、すべてが調和して古き良き時代の面影を漂わせています。
 


低めのソファに腰を沈めると空間が広く感じられ、心も落ち着きます。また壁のタイルは深緑の色むらが芸術的で美しく、六曜社を象徴する存在。清水焼のこのタイルは今ではこの色で焼くことはできない、貴重なものでもあります。

 

創業75年の間にメニューは少しずつ変化し、約20年前からモーニングやスイーツが登場しました。2013年からは三代目の奥野薫平さんが店に立つようになり、現在地下は薫平さんの父である奥野修さんが、1階を薫平さんが主に担当しています。


-地下店と1階の違いとは?

「お客さんから『地下と1階って何が違うんですか?』とよく聞かれます。ややこしいですよね」と笑う薫平さん。
 


地下と1階では営業時間と提供するメニューなどに違いがあります。地下の営業は昼の12時からですが、1階は朝の8時30分からオープンしています。
 


スイーツメニューは共通ですが、コーヒーはまったく違うのが面白いところ。修さんと薫平さんがそれぞれ選び自家焙煎した珈琲豆を使っており、異なる味を楽しむことができます。ただ地下で修さんのコーヒーを飲めるのは17時まで。それ以降は修さんが不在になるため、1階と同じコーヒーになります。
 


また地下は終日禁煙ですが、1階では午後から喫煙可能に。今ではタバコとコーヒーを味わえる貴重な場所となったこの喫茶店は、愛煙家たちの密かなオアシスにもなっているようです。


-まずは父・奥野修さんが切り盛りする地下店へ。

最初に訪れたのは地下店。外からは様子が見えづらいですが、扉を開けるとカウンターの向こうから修さんが穏やかな笑顔を見せてくれ、なんだかホッとします。修さんが六曜社で働き始めたのは約50年前のこと。当時は先代の父や母、兄たちと家族みんなで店を切り盛りしていました。
 

<奥野修さんプロフィール>
奥野修さん。1952年生まれ。シンガーソングライター・オクノ修としての顔も持ち、2025年2月にも新譜をリリース。[拾得]など京都のライブハウスを中心に不定期でライブを開催

「私が働き始めた1970年代は、京大や同志社といった京都の大学生や先生で賑わっていましたね。喫茶店は議論を熱く交わす場所でもありました。学生がコーヒーを飲んでから席をキープしたまま、お昼ごはんを食べに出たり本屋に行ったりすることもあって。大らかな時代ですよね。私が音楽をやっているので高田渡といった仲間のミュージシャンたちや太秦の役者さんもたくさん来られました。あと当時は地下のバーにバーテンダーがいて、お酒を飲みに来る人も多かったです」
 


修さんの後ろにずらりと並ぶウイスキーの中にはキープボトルも。時を経て味わいが増した店内に、主を待つボトルがしっくり馴染んでいます。

店内に立ち込める香りにそそられるコーヒーは、すべて修さんが専用の焙煎所で自家焙煎したもの。4種類の焙煎度合いに分かれ、それぞれ産地別に数種類用意しており、更にブレンドが2種類。コーヒー好きのさまざまな好みに対応することができます。
 


「煎り加減で味が変わるコーヒーの全貌がわかるように揃えています。簡単に言うと深煎りは苦味、中深煎りはコク、中煎りは軽さ、浅煎りは酸っぱさ。最近は浅煎りがブームではありますが、店のお客さんは昔ながらの深煎りを好む方が多いですね」
 

中深煎りのすっきりとした苦みが人気のハウスブレンド600円。コーヒーは注文を受けてから豆を挽いており風味が豊か。毎日焼きたてが届くドーナツ250円は素朴な味でコーヒーによく合い老若男女に好評

コーヒーとともに人気のドーナツは、修さんの奥さんが毎日手作りしているそう。ドーナツの他、パウンドケーキやロールケーキなど、その日によって数種類のスイーツが用意されています。
 

パウンドケーキ300円

1960〜70年代の喫茶店ブームが去った後は喫茶店文化に陰りが見えた時代もあり、六曜社も例にもれずその影響を受けたといいます。

 


「喫茶ブームが過ぎても、京都は昔から喫茶店文化が根強かったので、それを底支えする人たちがいたのだと思います。今では若い人が純喫茶に注目するようになり、そのあり方や価値も見直されてきていますよね。この辺りの街並みは移り変わりが激しいですが、時代が変化しても六曜社は変わらず京都で落ち着ける場所の一つになれたら嬉しいです」と話してくれました。
 

-続いて三代目が切り盛りする1階へ

地下店を後にし、1階を訪れました。若い世代から年配の常連さんまでが集い、相席文化も残る店内は昔から変わらない風景が広がっているように感じられます。薫平さんが淹れるネルドリップのコーヒーも、1階ができた1965年から変わらないスタイルです。
 

<奥野薫平さんプロフィール>
奥野薫平さん。前田珈琲で7年半経験を積み独立。東山三条で「喫茶feカフェっさ」を3年半営んだ後に家業である六曜社に入り、三代目として1階を任される

「喫茶店巡りが趣味だった両親に子どもの時から京都の喫茶店によく連れて行ってもらい、自分もこういう場所が好きになりました。ですので、高校を卒業した時に喫茶店で働き始めたのは自然のことで。前田珈琲では7年半働いて店長職を経験し、独立して自分の店を持つ経験もしました」

外で働くことで家業である六曜社の店を客観的に見つめることができ、継承について考えることができるようになったそう。そして薫平さんがここで働き始めた時に、心に決めていたことがあるといいます。
 


「祖父母が始めた店を自分の代で変えようとは思いませんでした。何十年と通う常連さんからすれば自分は新参者。そのお客さんが好きでいてくれる六曜社のあり方を大切にしたいと思いました。相席にもなる1階は社交の場であり憩いの場であり、昔で言うサロンのような場所でもあります。祖父母はその場を守るため、行き届いた接客をすることを何より大切にしており、お客さんがどうしたら居心地よく過ごせるかを常に考えていました。自分もその想いを受け継いでいけたらと思っています」
 


祖父母の姿勢から身につけたことは数知れず、「話が盛り上がっているテーブルは会話が途切れないよう、タイミングを見て水を継ぎ足す」「本や新聞を読んでいるお客さんは、手に取りやすい場所を考えてコーヒーを置く」「何回か来てくれるお客さんの好みを覚えてコミュニケーションにつなげる」など細かい配慮の積み重ねが六曜社の居心地の良さを作り上げています。
 


1階ではコーヒーも、六曜社のイメージを崩さないように祖父母の時代からの味を意識しているそう。地下のコーヒーはクリアな味わいですが、1階で提供されるのは昔ながらの懐かしい喫茶店のコーヒー。あえてきれいな味にしすぎず、ミルクと砂糖を入れて完成するような味を目指しています。
 

コーヒーにブランデーを加えた深みのある味わいで夜にぴったりのブランディコーヒー750円と、バタークリームがまろやかなロールケーキ300円

「店は朝から夜遅くまで開いているので、時間帯によっても雰囲気が少しずつ変わっていきます。夜は食後のコーヒーを飲みに来て、食事の余韻を楽しんでいるようなお客さんが多いです。家や宿に帰るまでの道のりにちょっと彩りを添えるような、止まり木のような存在になれたら嬉しいですね。」
 


「これはまだ未定のことですが、今後は地下のバータイムでお酒を充実させるのもいいかもと思っています。バーテンダーがいた頃は満州時代の水餃子を出していたようなので、それを復活させるのも面白いかなと思ったり。あくまで祖父母が作った店のあり方に敬意を持つことは忘れず、六曜社が京都で愛される喫茶店になるように継承していきたいです」。
 

 

今回のスポットの基本情報

【住所】京都府京都市中京区河原町通三条下ル大黒町40
【営業時間】
1階8:30~22:30(LO/22:00)
地下 喫茶12:00~17:00(LO/16:30)
バータイム17:00~23:00(LO/22:30)
【休業日】水曜
【電話】075-221-2989
公式HP

【比較的空いていることが多い時間帯】21時以降
【喫煙情報】1階店舗にて12:00〜のみ喫煙可能
【お子様の同伴】可
【外国人の方に向けた対応】メニューに英語の表記あり
【店内での写真撮影】他のお客様が写らなければ可能
【お支払い】現金のみ
【予約】不可
【バリアフリー対応】無
【その他】個室無し


今回の記事の読者への特典

特典内容:ご注文時に「『夜観光のススメ』を読んだ」とお伝えいただいた方に、2杯目のドリンクが半額
特典有効期間:2025年9月30日までの開店日の17:00~閉店時間まで


ライター・カメラマン情報

ライター【桑野 詠子】
愛知県出身京都在住。京都が好きで移り住んで約20年。制作プロダクションでの編集を経て、ライターとして独立。主にグルメ系や旅系の雑誌・webの記事を書いている。

カメラマン【畑中 勝如】
宮崎県出身。京都の「STUDIO NEUTRAL」にて写真を学ぶ。関西を中心に勝手に活動中。
 

今回の記事制作担当

株式会社リーフ・パブリケーションズ