細辻伊兵衛美術館と永楽屋
京都市中京区の烏丸御池エリアに位置する細辻伊兵衛美術館は、元和元年(1615年)創業の綿布商「永楽屋」が手掛ける、世界初の手ぬぐい専門の美術館です。2022年に開館した比較的新しい施設であり、室町三条の地で14代にわたり商いを継続してきた歴史を背景に、館内では江戸時代から現代に至るまでの膨大な手ぬぐいコレクションを洗練された空間で公開しています。

この場所で紹介されている作品群には、布地そのものの意匠性だけでなく、戦国・江戸の歴史的動乱、海外の著名な美術家との接点、祇園祭、さらには近年の大阪・関西万博との関わりまで。夜間の細辻伊兵衛美術館の楽しみ方をレポートします。
歴史上の人物との関わり
永楽屋の起源には、戦国時代や江戸時代の著名な歴史的人物が深く関わっています。
織田信長:屋号と苗字の拝領
創業以前、先祖は呉服商「大黒屋」として織田信長公の御用商人を務めていました。信長の命を受けて出陣した際、着用していた直垂に信長の旗印である「永楽通宝」の紋が入っていたことから、信長公より「永楽屋」の屋号と「細辻」の姓を授かったと伝えられています。これが現在の永楽屋の原点となっています。

大石内蔵助:討ち入り前の密かな交流
元禄15年(1702年)の赤穂浪士討ち入り前、大石内蔵助は京都の山科などに滞在し、仇討ちの意図を隠しながら生活を送っていました。この時期に初代・細辻伊兵衛と親交があり、初代は内蔵助と親しくしていたとされています。内蔵助からそのお礼として贈られた文机や礼状は、長く家宝として永楽屋に保管され、現在はゆかりの山科の大石神社に寄贈されています。

入場券は「手ぬぐい」!
当館を訪れる際の大きな魅力の一つが、「本物の手ぬぐい」がチケットとして手渡されるユニークな仕組みです。
中学生以上の入館者には、アーティストの立花文穂さんがデザインした美術館ロゴ入りの特製手ぬぐいが配られます。
チケットの下部が半券になっており、受付でそこを引き裂いて入館します。人工照明の効果によってこの手ぬぐいたちの織り目が美しく引き立ちます。手に入れたばかりの手ぬぐいを館内の明かりに少し透かしてみることで、木綿ならではの温かみのある風合いや、染料の重なりを細部まで観察することができます。
美術館の見どころ
1階は、お土産を選べるショップの永楽屋本店と美術館からなっています。美術館では、現在は昔話や伝説を題材にした「布の上の物語展」が開催されています。

2階は、メインの展示スペースです。江戸から昭和初期の貴重な当時の手ぬぐいや細辻家にゆかりの歴史的な資料が並びます。

現在は、昭和初期の祇園祭柄の手ぬぐいや、後祭の山鉾を描いた諌山宝樹先生の新作を特別公開する「祇園祭後祭と役行者山展」(8月18日まで)を同時開催しています。歴代の職人技と現代アートが融合した、洗練された静かな空間です。
世界的芸術家によるデザイン
また、細辻伊兵衛美術館のコレクションは日本の伝統柄に留まらず、20世紀前半の西洋アートシーンを彩った一流芸術家たちのデザインも含まれています。

永楽屋では、現代バレエの原点とされる「バレエ・リュス(ロシア・バレエ団)」などの公式プログラムや衣裳デザインのアートワークに着目してきました。当時、これらに深く関わっていた以下の巨匠たちの作品を、独自の染め技術によって手ぬぐいとして再現し、展示・販売を行っています。

パブロ・ピカソ: バレエ作品『三角帽子』のためにピカソが手掛けた衣裳デザインや、1917年の公式プログラム表紙絵などを鮮やかに表現しています。
藤田嗣治(フジタ): エコール・ド・パリを代表する画家であるフジタが寄せた繊細なアートワークを布の上に落とし込んでいます。
ジョルジュ・バルビエ(バレエ): 20世紀初頭のアール・デコ期を代表するイラストレーターであり、その流麗でクラシカルな世界観を手ぬぐいの意匠として楽しむことができます。
東洋の伝統技法と西洋のモダンアートが融合したこれらの作品は、スポットライトの下でも独特の存在感を放ちます。
見逃せないミュージアムショップ
1階には、常時300種類以上の手ぬぐいが揃うがあります。明治から昭和初期の復刻柄を、の織機で仕立てた肌触りの良い限定手ぬぐいや、などの小物が並びます。
京都の美しい風景や歌舞伎俳優とのコラボ作品もあり、きっとお気に入りの作品が見つかることと思います。
「祇園祭」との結びつき
美術館が位置する烏丸御池・室町通一帯は、日本三大祭りの一つである「祇園祭」の山鉾が建ち並ぶ中心地です。地域に根差した老舗として、祭りとは切っても切れない関係にあります。

祇園祭「後祭」宵山期間中の22時までの延長開館
祇園祭の後祭の7月21日(火)から23日(木)期間中、細辻伊兵衛美術館は通常の閉館時間(19:00)を大幅に延長し、22:00(最終入館21:30)まで開館しています。
駒形提灯に灯りがともり、祇園囃子が響き渡るお祭り独特の熱気の中で、夜遅くまでゆっくりと展示を鑑賞できる特別な機会となっています。

「役行者山」との深い縁
細辻伊兵衛美術館がある役行者町は、後祭で巡行する「役行者山(えんのぎょうじゃやま)」の保存会がある町内です。地元との連携は深く、祇園祭の時期には『祇園祭後祭と役行者山展』などの企画展が定期的に開催されます。永楽屋が昭和初期に染めた祇園祭柄の復刻手ぬぐいなどが展示され、祭りの歴史的な背景を館内でご覧いただけます。
現代のアート発信:大阪・関西万博への参加
長い歴史を守る一方で、現代の国際的な舞台においても伝統技術を用いた新しいアプローチを行っています。
落合陽一氏とのコラボレーション
2025年に開催された大阪・関西万博では、シグネチャーパビリオン「null²」において、メディアアーティストの落合陽一氏とコラボレーションした作品『落合陽一×永楽屋「手・ヌル・GUI」』を出品しました。伝統的な友禅染の技術と現代アートを融合させ、日本のテキスタイル文化を世界へ提示しました
周辺グルメと合わせた夜の巡り方
烏丸御池・三条室町周辺は、洗練された飲食店が集まるエリアです。2022年に美術館が誕生して以来、アート鑑賞の前後で立ち寄れる洒落たレストランやビストロに加え、個性豊かなカレー専門店やバーの存在感がさらに注目されており、京都の夜のひとときをさらに豊かにしてくれます。
基本情報
| 住所 | 京都市中京区室町通三条上ル役行者町368 |
| 連絡先 | 075-256-0077 |
| アクセス | 京都市営地下鉄「烏丸御池」駅 徒歩3分 |
| 休館日 | 無休*臨時休館する場合があります。 |
| 開館時間 | 10:00〜19:00(入館は18:30まで)祇園祭の後祭の7月21日(火)から23日(木)期間中22:00(最終入館21:30)まで開館*開館時間は変更になる場合がございます。公式HPでご確認ください。 |
| 細辻伊兵衛美術館公式HP | 細辻伊兵衛美術館公式HP |
制作:京都市観光協会誘致事業課 「朝観光・夜観光」担当
制作協力:細辻伊兵衛美術館