日本を訪れている外国人の方々に能楽文化を身近に感じて頂くことを目的とした、英語解説を用いた能楽公演「IMAGINE NOH」が今年も10月・11月に開催されます。
公演の様子を知っていただくために、昨年京都市観光協会の職員が鑑賞した際の公演レポートを掲載致します。

夕闇に包まれ、しっとりとした情緒が漂う京都・岡崎。平安神宮のほど近くに佇む「京都観世会館」の門をくぐると、そこには日常を忘れさせる幽玄の世界が広がっていました。
今回体験したのは、国内外から注目を集めるプレミアムな能楽プログラム「IMAGINE NOH(イマジン・ノウ)」。日本人にとっても「少し敷居が高い」と感じられがちな能楽が、驚くほど身近に、そして深く心に響いた一夜をレポートします。

「なるほど!」が止まらない。知的好奇心を刺激する英語解説
客席に座ると、まずは京都市認定通訳ガイド(KVH)による導入解説からスタート。本公演の最大の特徴は、この解説が「英語」のみで行われることです。 「英語だと理解できるかな?」と一瞬不安がよぎりましたが、実はこれが日本人にとっても大きな魅力。例えば、能面の角度をわずかに変えることで表情の変化をつける「テラス(明るい表情)」「クモらす(悲しい表情)」といった専門的な所作の意味を、平易な言葉で紐解いてくれます。

例えば、能面の角度をわずかに変えるだけで表情の変化をつける「テラス(明るい表情)」「クモらす(悲しい表情)」といった専門的な所作。あるいは、演目『小鍛冶』で稲荷明神が狐の化身として登場する際の独特の歩み。それらが「なぜ、そう演じられるのか」という理由を、予備知識のない方にも伝わる平易な言葉(=英語のロジック)で整理してくれるため、その後の舞台が驚くほど立体的に、鮮やかに見えてきます。

「なんとなく知っているつもり」だった伝統芸能が、クリアな輪郭を持って心に飛び込んでくる快感。言葉の壁を越えようとする熱量あふれる解説こそが、実は日本人にとって能楽の世界へ入り込む一番の近道かもしれません。
至近距離で浴びる、伝統の熱量と笑いのエッセンス
いよいよ幕が上がると、そこは数百年前の京都。今期のメイン演目は、名刀誕生の伝説を描く能「小鍛冶(こかじ)」と、思わず笑みがこぼれる狂言「柿山伏(かきやまぶし)」です。
「小鍛冶」では、相槌を打つ槌の音と、演者の力強い足拍子がホールに響き渡り、凄まじい熱量に圧倒されます。
能『小鍛冶(こかじ)』の一場面から
一方、狂言の演目(写真は昨年の演目の「盆山(ぼんさん)」。今年の演目は「柿山伏」です)は、現代にも通じるユーモアがたっぷり。会場からは、言葉の壁を越えて世界各国のゲストから笑い声が上がります。演目は日によって変わることもありますが、いずれも京都の歴史や伝説をテーマにした、ダイナミックで親しみやすい構成となっています。
昨年の狂言の演目「盆山(ぼんさん)」から
今年度の演目の一つ、狂言『柿山伏』の一場面から
舞台の裏側まで。演者と語らう贅沢なアフタートーク
「IMAGINE NOH」の真骨頂は、終演後のアフタートーク。舞台を終えたばかりの能楽師が再び登場し、観客からの質問に直接答えてくれます。 過去には「あの重い装束でどうやって呼吸を整えているのか?」「面をつけていて視界はどうなっているのか?」といった素朴な疑問から、「演じている最中、神と一体になる感覚はあるか?」という深い質問まで飛び出しました。「面(おもて)の小さな穴から見える景色は、ほんのわずか。だからこそ、心の目で見ているのです」という演者の言葉に、会場中が深く感じ入る場面も。この双方向のやり取りが、伝統芸能を「遠い存在」から「血の通った芸術」へと変えてくれます。

主催者に聞く「今、伝えたい能楽の姿」
本プログラムの企画に携わるDiscover Noh in Kyotoの山根さんは、こう語ります。 「能楽は600年以上続く、いわば『今を生きる古典』です。難しく構える必要はありません。通常は能楽の公演は撮影禁止なのですが、今回は特別に撮影タイムも設けています。スマホのレンズ越しではその美しさは伝わりきらないとは思いますが、一期一会の舞台を思い出していただくよすがになれば嬉しいです。アフタートークも演者の声が聞ける貴重な機会です。そして、日本の方にこそ、海外のゲストが熱狂する自国の文化の素晴らしさを再発見していただきたいですね」
「アフタートーク」の光景
「撮影タイム」の光景
上演中客席を見渡すと、欧米やアジアなど世界中から訪れたゲストに混じって、熱心にメモを取る日本の方の姿も多く見られました。「インバウンド向け」と侮るなかれ。ここは、日本人も知らない「日本の心」に改めて出会える場所でした。

観世会館正面
演目詳細
・能「小鍛冶」
平安時代に実在した京都の刀匠にまつわるお話です。
帝より刀を作る命を受けた三条宗近が困っていると、稲荷明神が現れて伝説的な刀が造られる荘厳でありながら躍動的な物語です。
・狂言「柿山伏」
お腹をすかせた修行帰りの山伏が他人の柿を無断で食べ、見つかった後に畑の主に動物の鳴き真似をさせられた果てにさらなる苦難が待ち受けるコミカルな物語です。
※「IMAGINE NOH」公演は、解説は全て英語のみで行われ、日本語での解説はございません(「アフタートーク」の時間については、外国人からの質問は日本語に翻訳され、回答も一旦日本語でなされます)。
イベント情報
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開催日程(2026年分) |
10月14日(水)、10月22日(木)、10月28日(水)、11月5日(木)全4回 |
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開催時間 |
17:30~19:00 |
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会場 |
京都観世会館(京都市左京区岡崎円勝寺町44) |
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アクセス |
地下鉄東西線「東山駅」1番出口より徒歩約5分 |
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料金 |
一般:23,000円 ユース(18-25歳):5,000円 子ども(6-17歳):無料 |
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写真撮影 |
公演後のアフタートーク時のみ撮影可能(思い出をシェアしましょう!) |
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公式WEBサイト(ご予約も、こちらから) |
https://imagine-noh.com/ |