猿に始まり、狐で卒業

猿に始まり、狐で卒業
さるにはじまり、きつねでそつぎょう
狂言の家では2、3歳くらいから稽古(けいこ)を始めます。父親や祖父から口移しでセリフを習うのです。かわいい童役などで徐々に舞台に慣れさせ、正式に初舞台を踏むのが6歳前後。最初の役が『靭猿(うつぼざる)』の小ザルです。セリフはありませんが、タイミングを図って「キャー」「キャー」と鳴いたり、大名や猿曳(ひ)きとのからみもあって、なかなか大変です。舞も謡も習うなど、狂言師としての本格的な修業の始まりです。狂言の世界ではそうした修業の過程を「猿に始まり、狐に終わる」といいますが、これは『靭猿』からスタートした狂言師の卵が学校を出るための卒業論文が『釣狐(つりぎつね)』であることを意味します。『釣狐』は老ギツネと化けた僧侶の2役を長時間にわたって務め、技術的にも精神的にも極度の集中力が求められる役。20歳ごろに初めて演じます。この卒論が無事パスすれば、後は本人自らの鍛練で狂言師としての道を歩みます。「狐に終わる」といっても、狂言師の修業は生涯、続くわけですね。