狂言師の仕事ぶり

狂言師の仕事ぶり
きょうげんしのしごとぶり
こんな逸話が残っています。さる有名な能役者が前半の舞台を終え、楽屋に戻って後半の支度にとりかかっていた時のことです。舞台でこの間のつなぎを務めるのが狂言方の「アイ」と呼ばれる仕事で、そのセリフが楽屋にまでよく聞こえてきました。何げなく耳を傾けると、自分が務めた前段のあら筋や経緯を狂言方が要領よくかいつまんで語っています。役どころは土地の男。旅の僧を務めるワキ方が聞き役です。楽屋でじっと聞いていた能役者がハタと膝をたたいて、「そうか、わしが演じていたのはそういう話だったのか」と語ったというのです。ウソか本当か定かではありませんが、狂言役者の仕事ぶりを端的に表した逸話です。狂言役者は仲間とともにユーモラスな狂言を上演するばかりか、能の中で語り部的に昔話を語ったり、シテの家来になったり、時には小舞を舞い、謡も聞かせるなど重要な働きをします。鍛えあげた身体表現とともに、セリフの明快さもまた狂言役者の生命なのです。